鹿市医郷壇

兼題「運(ふ)」


(451) 樋口 一風 選




清滝支部 鮫島爺児医

八十歳迄良か運い恵っ娑婆べ感謝
(はっじゅずい よかふいのさっ しゃべかんしゃ)

(唱)天職じゃっち必死め頑張っ
  (てんしょっじゃっち けしんめきばっ)

 傘寿まで大過なく過ぎたのは、決して運の良さだけでは無かったと思います。それを運が良かったからと言う謙虚さが、作者の人格を作り上げているのでしょう。「正直の頭に神宿る」と言う諺も有ります。「娑し婆ゃべ感謝」が良いです。薩摩郷句にもこんな真面目な句もあるという見本の句です。





上町支部 吉野なでしこ

不合格か運が悪いかでちきし吐かえっ
(ふごうかか ふがわいかでち きしかえっ)

(唱)勉強もせんじ遊すじょったくせ
  (べんきょもせんじ あすじょったくせ)

 人生に運と不運は付きものでしょう。確かに、受験には傾向と対策が必要でしょうから、それが外れた場合は運が悪かったと、言えるでしょう。
 でも合格している人もいるのですから、運の所為にだけはしないように。





紫南支部 二軒茶屋電停

運が良かち感謝をすっで運い恵っ
(ふがよかち かんしゃをすっで ふいのさっ)

(唱)誠て有難て事どが連鎖
  (まこてあいがて こっどがれんさ)

 何事にも感謝しながらの人生です。幸運の女神はしっかりと見ています。付つきを呼ぶ、と言う言葉もあります。
 前向きに何事にも感謝しているから、幸運を呼び込めるのでしょうか。



 五客一席 川内つばめ

宝くし運の良店言でやれ貢っ
(たからくし ふのえみせちゅで やれみつっ)

(唱)噂せ釣られっ今日も行た売い場
  (うわせつられっ きゅもいたういば)



 五客二席 清滝支部 鮫島爺児医

茶柱で運を占のちょい老夫婦
(ちゃばしたで ふをうらのちょい おんじょみと)

(唱)手揉ん茶じゃっで凄い数立たっ
  (てもんちゃじゃっで わざいしこたっ)



 五席三席 上町支部 吉野なでしこ

宝くし運が悪いとじゃろ常時空
(たからくし ふがわいとじゃろ ねんじゅすか)

(唱)今度こそはち神棚ね供げっ
  (こんどこそはち かんだねあげっ)



 五席四席 川内つばめ

祓れ帰い運の悪い事ちな当てられっ
(はれもどい ふのわいこちな あてられっ)

(唱)こいぐれで済ん軽いかった事故
  (こいぐれですん かいかったじこ)



 五客五席 清滝支部 鮫島爺児医

運の良旅汽車も遅れっ間い合っ
(ふのえたっ きしゃもおくれっ かけいおっ)

(唱)危ねかったちけ座っ安堵
  (あっねかったち けすわっあんど)


秀  逸


上町支部 吉野なでしこ

危ねこっ事故を逃のがれた運の良か衆
(あっねこっ じこをのがれた ふのよかし)


清滝支部 鮫島爺児医

親ん年齢しょ越えっ生きたち運い感謝
(おやんとしょ こえっいきたち ういかんしゃ)

運で良かでホールインワン言ちゅとが夢
(ふでよかで ほーるいんわん ちゅとがゆめ)

運が良時きゃ残い籤でん大当い
(ふがえときゃ のこいくしでん おおあたい)

運試しの今年の御籤じゃ全部吉
(ふだめしの ことしのみくじゃ ずるっきっ)

運が良かたちゃんと頑張った言う褒美
(ふがよかた ちゃんときばった ちゅうほうび)


川内つばめ

夫婦ん運が最高じゃった結婚当初
(みとんふが ちょっぺんじゃった といえはな)


作句教室
 運に関連した言葉。
 「ふんぶ」運命、天運、天賦、幸不幸。
 ウンフウン(運不運)の転訛か、ウンフ(運賦)の転訛か。
 「人それぞれフンプが違(ちご)っ、どしこ働れてん貧乏(びんぶ)すい人もおれば、分限者ん家(う)ち生れっ、一生、楽(だ)き暮す人もおい。」

「人ん事(こ)ちゃ運不運(ふんぶ)じゃいがち軽(か)る吐(か)えっ」
狂 二

 「両方から運不運ち思っ我慢っ夫婦」
きんつ
 (都城さつま方言辞典から)。
 「薩摩方面は「運不運(うんぷふんぷ)」という所もあります。
 似た言葉に「運賦天賦(うんぷてんぷ)」とも。


 薩摩郷句鑑賞 104

花嫁御運ぬ委せた猪口く空けっ
(はなよめじょ うんぬまかせた ちょくあけっ)
増田 山猫

 これは三々九度の盃をくみかわす様子を詠んだもので、さらりとまとめているけれども、味のある作品である。
 夫婦のちぎりを結ぶ盃を飲み乾して、これから何十年と言う長い夫婦生活が始まるわけであるが、幸せになれるのも、不幸になるのも、相手次第かも知れない。
 「運を任せた猪口をあける」何だか諦めたような言い方が、かえっておかしさにもなれば、真実味ともなっている。


雨宿ゆさせち飛っ込だ家も漏っ
(あまやどゆ させちとっくだ うっももっ)
加治屋心眼

 空腹に泣く子もいなければ、破れた衣服を着た人も見かけない世の中。住宅ローンの返済に四苦八苦はしていても、雨漏りのする家に住んでいる人はめったにいないから、こんな情景は今の人々には、経験もないことだろう。
 傘がなければ、雨宿りなどせず、タクシーを呼び止めるほど、世の中は贅沢になってきた。
 しかし、「衣食足りて礼節を知る」という諺とは逆に、誠になげかわしいことばかり目にすると、雨漏りのする家に住んだ頃がなつかしい。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋



薩 摩 郷 句 募 集

◎8 号
 題 吟 「 理由(わけ)」
 締 切 平成29年7月5日(水)
◎9 号
 題 吟 「 叫っ(おらっ)」
 締 切 平成29年8月5日(土)
◇選 者 樋口 一風
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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