随筆・その他

リレー随筆

将来有望!?な彼との生活


鹿児島市立病院 小児科 平林 雅子

 私は文章を書くのが多分好きな方です。しかし言葉の意味や常識がしっかりわかっていないので,何を書くにもまずは「調べる」ことから始めます。今回はまず「随筆」を調べました。
 随筆とは「心に浮かんだ事,見聞きした事などを筆にまかせて書いた文章。そういう文体の作品」とのことです。
 あー,そういえば誰かが徒然なるままにとかって随筆を書いていたな,と思い浮かんだものの誰が書いたのか思い出せず,また調べます。あー,そっか吉田兼好の徒然草ね。そうだった,そうだった。
 さて随筆・・・どうしようか。寄稿依頼と併せて過去に掲載された1年分のリレー随筆が同封されていました。私は人に言えるような趣味もなければ(人に言えない趣味もないですが),これを語らせたら朝まで飲める!なんて好きなものも持ち合わせておらず,過去のリレー随筆を見て皆さんそれぞれ好きなことや趣味があって,それについてこんなにも多くのことを語る知識があるんだと愕然としました。そして気づきました。テーマのない文章を書くのは難しいということに。

 迷った末,私の生活の大部分を占める彼について書こうと思います。

 彼は小学校1年生,おっぱい,おしり,ちんちんが大好き,まさに男子という生き物です。まだまだお母さん大好きな甘えん坊で,束縛の激しい小さい彼氏という感じです。私が飲み会に行こうとすると「それ前から言ってたっけ?この前も飲み会行ってたよね,前もって言っといてって言ってるでしょ!9時には帰ってきてよね!!!」と少し前まで号泣していました。
 「隣の部屋から宿題持って来なさい」が3歩歩けば忘れ去られ,隣の部屋で目に入った何かで遊び始めます。私は「宿題持って来なさいと言ったでしょ!」と怒りますが,彼にとっては初めて聞く「宿題持って来なさい」なので,「なんでそんなに怒るんだ」となり,宿題を始める前から既に険悪です。ついこの間も主人にとくとくと説教をされ,私が後ほど「お父さんとどんな話したの?」と聞いたところ「えーっと,なんだったっけ,忘れた」と言うので父親から「お前はニワトリか!」と突っ込まれ,返ってきた言葉が「えー3歩歩いてないよ」,夫婦で「そういうことじゃない!」・・・ため息です。
 年々知恵をつけ,ただ怒るだけの恐怖政治は通用しなくなってきました。私たち夫婦は喧嘩をほとんどしたことがありません。私が怒鳴るところなんて主人は見たことなかったはずですが,彼が台頭して来てからの私は日々怒鳴り散らしています。彼はもうそれには慣れっこで,私を怒らせるワード,怒らせる態度を様々なバリエーションで展開してきます。

 怒ってはいけない,「〇〇しなさい!」ではなく「何をしようとしているの?」からの「あと5分したら〇〇しようか」,など「声かけの仕方」で男子の将来が変わるというので,実践を試みますが,24時間しかない1日,朝のドタバタの中で5分どころか1分だって待ちたくない!仕事を終え家に帰るのは18時前後,児童クラブでは当然のように宿題はやっていない,夜ご飯前に宿題を終わらせて欲しいのに,制服を中途半端に脱ぎよくわからない自作の武器やらを手にウロウロ。
 キーーーーッ!!「何をしないといけないか考えなさい!」
 こうなっちゃいます。なんで毎日怒られるまで宿題をやれないのか,なんで今日は怒られる前にやっちゃおうと思えないのか,謎は深まるばかりです。優しく促したところで彼はもう動かない,怒ったところでその3分後には練り消しを作り始める。「あーもう別に私は困らないから宿題させなくていいかなぁ」結果疲れているのは私一人。他の人はどうしているんだろう・・・と毎日考えるわけです。

 私が彼に望むことはただ一つ,いや二つ。人から愛される人間になり,1人でも食べていく(願わくば家族を養える)術を身につけてもらう,ただそれだけなのです。でもそのために何が必要かを考えると,何が必要かを考えるための知恵だと思うわけです。私たち親は教えられているのだろうか。
 机に向かう習慣を9歳までにつけないと後々大変だ,今の時代はちょっと頭が良いくらいではいい学校には行けないなど色々な情報が溢れる中,彼に必要なことを考え,実践させるのは並大抵ではなく,一言で言うと面倒くさい・・・誰か教えて,将来彼が普通の生活ができるくらいにはなれるのか,そのために今親としてしないといけないことって何なのか,という気分です。

 私は小児科医をしていますが,突然やってくる我が子の不幸に直面することも多々あり,やりきれない気持ちと,子どもが健康でいることや,普通に動けたり,喋れたりすることがどんなに幸せなことかを痛感し,明日は我が身かもしれない不安に苛まれることも多々あります。しかし家に帰ると,健康な彼を見て,「幸せだ」と感じると同時に,「健康であればいいんだ,生きているだけで幸せ」ではなく,「あなたは健康なんだからやることやりなさい」と,彼とのバトルが始まるわけです。

 生まれる前は「健康で生まれてきてくれさえすれば」と願うだけなのに,生まれた瞬間彼の顔を見て「あれ?一重なんだけど」と思っちゃった私です。いつまでもお母さん大好きでベタベタして欲しいなとか思っていたけど,実際1年生になって毎日駅までのお見送りを強要されると,「なんで1人で行ってくれないの?」と文句の一つも言ってしまうわけです。
 「子どもが子どもでいる時間は限られている,今日の彼は明日にはもういない,だから今を慈しみ,愛おしみ,甘えてくれることを幸せに思おう!」
 冷静になればそう思えるのですが,まだまだ自分が人として未熟が故,
 「寝返りできないからもう1人で寝てくれないかな・・・」
 「この寒い中野球とかしたいの?お母さんは嫌だな。部屋でテレビ見よう!」
 とか思っちゃうわけです。

 日々,正解がわからない「人」を育てる作業の中,不安ながらも彼の存在で私は日々やっぱり幸せで,人としてもきっと成長しています。
 これからも彼との生活を楽しみつつ,将来を楽しみにしながら,将来彼に私の息子でよかったと思ってもらえるよう,自分も人として,医師としてさらに成長できるよう頑張ります!

次号は,鹿児島市立病院の田平達則先生のご執筆です。(編集委員会)





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